ボローニャの高級カミチェリア、マロルのシャツ。高い。
イタリアのパンタローネ、DRAPPERIA NAPOLETANAや、手袋が有名なメローラ、ドイツ靴のDieter KUCKELKORNなど玄人向けのブランドを扱っている、CAVALLERIAという大阪の店がある。
もとはAristocraticoという名で、同名のオリジナルシャツのブランドを展開する、名前通りの貴族御用達、高価で凝ったイタリア服のセレクトショップ。
ここで知ったシャツ屋がmarol(マロル)。銀座のとあるサロンも扱っているので、確かなブランドであろうと予測がついた。初見の印象では、FRAYやBuriniなどの端正なマシンメイド・ドレスシャツの系統、ドレスアップに適した主張しないディティールのシャツ。
ボローニャのシャツブランドと言えば先に挙げたクラシコイタリア協会所属の王道シャツブランド、FRAYが思い浮かぶ。マシンメイドの美の極致たる美しさを誇るシャツ屋だ。そのFRAYを上回る異様とも言えるレベルの運針の細かさを誇る技術が高じて、いささか妙なセンスにまで到達してしまったのがmarolだと私は理解している。
硬めの芯の襟型は非常に綺麗。タイドアップ時に身頃に襟先が這う。良く出来ている。 襟の横は10針/1cm位だが、縦のステッチは13針。この13針、marolが昔から推しているポイントで、確かにこの精緻さは美しい。
襟羽根は表のみ接着で、台襟が両面接着。台襟は通常高級シャツの仕様では内側を肌ざわりの観点から接着にしない事が多いように思えるが、このシャツは硬めの芯だからか両面接着である。
ただ、硬い芯がアイデンティティのブランドというわけではない。この微起毛のシャツは、某青山にあった高級セレクトショップがオリジナルをmarolに作らせていた(K氏が好きらしい)もの。こちらはかなり柔らかな襟芯。ある程度オーダーに応じて作り分けているのだろう。(※ただMaria Santangeloも同店のオリジナルを作っており同店スタッフは「そっちの方がウチが表現したいものに近い」と言っていたので、よくわかんないっす。)
marolは2016年にアジアのクラシコ好きに買収され、リブランディングを行い始めたので現在はラグジュアリーな雰囲気が押し出されている。が、この30人の女工で成り立っているアトリエブランド、ちょっと前のウェブサイトでは、技術を持て余したからなのか顧客が北伊の富裕層のオーダーだったのかマイターカラーを掲載しており、個人的に抵抗があった。その精緻なステッチや高品質な生地選びなど、評判が良い割には知名度が(日本では)あまり高くなかったのだが。
肩上では10mmの縫い代は脇下で5mm。始末がとても美しい。
脇の縫製線は3mm、裾巻きは2mm。ペンタゴンガゼット。精緻だ。
marolはとにかく高い。阪急にてオーダー会があったが、裾値が66千円と、普通の感覚では挑戦できない。ちなみにFRAYもオーダーだと66千円。ナポリのAnna Matuozzoに至っては126千円。イタリアのシャツの中でもとりわけ強気な方々だ。Maria SantangeloやBarbaは35千円位だったと思うし、AVINO Laboratorio napoletanoですら55千円ほど。フランスのCharvetが56千円、イギリスのTurnbull&asserが54千円、日本のLESLESTONが40千+生地。
marolの価格設定がいかに高価かわかると思う。しかもmarolは、FRAYと異なり大手セレクトショップで既製品を見かける事はほぼない。一部のセレクトショップ顧客でないとわからないのではないか。
ちなみにLUIGI BORRELLIは43千円がオーダー裾値。自分ならボレッリをオススメするし、既製品で買うなら私はFRAYを選ぶ。ただそれはコストを考えての事だ。湯水のごとくお金を使っていいということであらば、marolで好き放題作るだろう(Salvatore Piccoloに雑な総手縫いのシャツを頼む可能性もある)。
これは前立て部分の一番下なのだが、ここに唯一、marolのアイコニックな仕様がある。別注のシャツを見てもmarolで作られたシャツにはこの仕様があった。シャツは昔、裾がパンツから出ないように股下でボタンで留める仕様だったのだが、その名残ともいえるのがこの仕様。まあ金隠しのようなこの仕様がカッコいいかどうかは疑問なのだが…。
marolを買収したボー・ヤン氏は、買収改造劇によくあるようなライフスタイルブランド展開はしないそうだ。本人が述べるには、まず最高級のシャツブランドにする、とのこと。デューディリもせず、ビビッときて買収したら結構ヤバい財務状況だったぜ、みたいなことも述べていて、ああ服好きなんだろうなと思う。好感が持てる。
今般のCOVID-19の情勢下から無事に立ち直れれば良いのだが。
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